ある日、店主の“マイスター”が愛の元を訪れる。かつての親友が戻ってきたと勘違いし、手土産のお菓子を抱えて。

そこで出会ったのは、雷蔵ではなく、見知らぬファンキーな若い女性——多幸 愛（たこう まな）。

雷蔵の娘であり、すでに雷蔵は亡くなっていることを知り、マイスターは驚く。

だがその日をきっかけに、愛はマイスターの作る焼き菓子の魅力に惹かれ、毎日のように店へ通うようになる。

——甘くてちょっぴり切ない、再会と出会いの物語。

だが、面接に行くための“ちゃんとした服”すら持っていないことに気づき、ふらりと立ち寄ったのは、お洋服屋「ザナインズ」。

「面接用のシンプルな服が欲しい」と伝える愛に対し、店主・ひらみんが差し出したのは、どれも個性的で独特な服ばかり。

「この服、あなたに似合うよ」——その言葉に、最初は戸惑いながらも、心が少しずつほぐれていく。

結果、面接には落ちてしまったが、自分の“らしさ”を大切にしていいと気づいた愛。

そして気づけば、ザナインズで働き始めていた。

——自分らしさを肯定してくれる場所との、やさしい出会い。

迎えてくれたのは、穏やかで飾らない鍼灸師・なっちゃん。

「印象アップしたいんやね」と笑いながら、丁寧にカウンセリングし、施術を始めてくれる。

百会（ひゃくえ）のツボに鍼がふれた瞬間、幼いころの父との記憶がふっとよみがえり、愛の目にはかすかに光るものが…。

施術後、背筋がすっと伸び、肌には血色とツヤが戻っていた。

そしてなにより、少しだけ自分を好きになれた気がした。

——姿勢が整うこと。それは、心まで整っていくということだった。

映画好きの愛が訪れたのは、靴下とギャラリーのお店「sunsun（スンスン）」だった。

そこでは映像の上映ではなく、“妄想映画”のポスターやアートTシャツがずらりと展示販売されていた。

愛はその中の一枚のアートに強く惹かれる。

色彩と構図、そしてどこか懐かしい雰囲気。まるで自分の心の奥とつながっているような気がして、その絵がプリントされたTシャツを購入する。

帰宅後、Tシャツのパッケージを何気なく裏返すと、そこには見覚えのある名前――亡き父・雷蔵の名前が記されていた。

この妄想映画の企画チームの一員として、父が関わっていたことを初めて知った愛。

知らなかった父の一面にふれた瞬間、愛のなかで何かがそっとほどけていった。

愛が自然と足を運ぶようになったのは、町の喫茶店「クモノキレマ」だった。

この場所には、今まで訪れたお店の人たちがよく顔を見せる。

皆、どこかゆるやかで、ありのままの空気が流れている。

気づけば愛も、ぽつぽつと心の内を話すようになっていた。

「もしかして、私が探していたのはこういう場所だったのかもしれない」

自分の気持ちに素直になれたとき、愛はこの町に住むことを決める。

それは新しい生活のはじまりだった。